「川幅日本一」を歩く(3)かつての鴻巣「東日本一」のなごりと寺社・湧水
川幅日本一の荒川流域の散策、3回目は再び鴻巣市側の左岸にうつって台地沿いを南下します。斜面沿いの寺社や湧水に加えて、意外なかつての鴻巣市域の「東日本一」を知ることが出来ました。
(これまでの記事はこちら)
滝馬室氷川神社と「滝馬室」の地名の元となった湧水(地図①)
御成橋から河川敷を台地に沿って南下すると、斜面に鳥居が見えてきます。
氷川神社の鳥居です。
参道の左側には小川が流れます。赤い鳥居の前に立派な石積みの階段の水場がありました。斜面側の注水口から水が流れ落ちています。
すぐ上の神池が水源となってそこから水が流れ出ていました。神社の解説板によると、この付近の「滝間室」という地名の「滝」は、この流れ落ちる湧水が地名の元となったとのこと。この整備された石積みはいつ頃のものでしょうか。かつてはもっと水量が多かったのかもしれません。
神池には大きなコイやウシガエルのオタマジャクシが泳いでいました。雨の後だったこともありますが、コイが動いてかき回すせいか、結構濁っていました。「かいぼり」したらだいぶきれいになるかも……
滝間室氷川神社の社殿。なお、集落は台地上にあり、通常は台地側からアクセスするようです。
社殿の側から低地を見下ろします。この先は河川区域で「川幅日本一」の範囲になります。この氷川神社もで取り上げた甚兵衛稲荷神社(「川幅日本一」を歩く(1)を参照)と同様、鳥居と参道が川側にあるのが何か意味を持つのか非常に気になりました。かつては水運が中心で、あくまで入り口は荒川側だったのかなあなどと想像してみたり。
さらに台地沿いに南下します。
途中、小さな谷地形があり、水路が流れ出ています。斜面沿いにはここにも湧水がありそうです。
常勝寺と段丘(?)(地図②)
湧水のある谷地形を過ぎると、台地の中腹には建つ常勝寺が見えてきます。
台地上ではなくて段丘の2段目といった感じ。人工的に削平された可能性もありますが、やや南側にも段丘っぽい地形がみられるので自然の地形でないかと想像しています。大宮台地ではめずらしいです。
境内には鎌倉時代の板碑も残されているようで、なかなかの古寺であることは間違いなさそうです。
ちなみに延暦年間に坂上田村麻呂が東征の際に大蛇を退治し、頭を滝馬室氷川神社に、胴体を常勝寺に、尾を吉見町の岩殿観音に埋めたという伝説があるそうです(氷川神社の由緒書きより 出展は不明)。寺号の「龍蔵山」というのもその伝説と関連があるのでしょうか。それぞれなかなか歴史の古い寺社であるようです。
寺内には弁天池と弁財天社があります。祠の上にさらに屋根がかけられていてかなり大切にされています。なかなか古いものかもしれませんが、解説は見つかられませんでした。背後が段丘の斜面ですが、現在は汲み上げた水を池に流しているようです。
原馬室橋(沈下橋)(地図③)
さて、荒川沿いを南下すると沈下橋(沈水橋)の原馬室橋があります。
この橋は軽自動車しか通れない滝馬室橋(「川幅日本一」を歩く(1)を参照)よりは広く、普通車も通行できますが、やはり欄干はロープを張っただけなので結構スリリングです。この橋も河川改修により荒川の対岸となった農地へ行くために架けられた橋です。
原馬室湿地と埴輪窯跡遺跡(地図④)
さらに斜面に沿って南下します。
谷の出口に湿地帯が見えてきました。
立て看板を見ると「原馬室湿地」。地下水位の高い谷の湿地(元湿田?)を再整備したようです。将来コウノトリの餌場となるように整備したと書かれています。鴻巣市の市名の由来となったコウノトリを呼ぶ取り組みをしているんですね。近年は渡良瀬遊水地にコウノトリが営巣していますが、ここに飛来する日が来るでしょうか。
この原馬室湿地の北側の斜面には「原馬室埴輪窯跡」がありました。
古墳時代に埴輪を焼いていた登り窯の跡です。
これはで埴輪がどこで作られていたかあまり考えたことなかったのですが、墳丘全体に並べられたりする埴輪はどこかで大量に作らなければならないわけで、その供給地のひとつがここだったわけです。
登り窯にちょうど良い斜面、制作した埴輪を運ぶための荒川の水運がそろった好適地だったんですね。台地上には埴輪工人たちの集落も発見されているとの事。「滝馬室」「原馬室」の地名の「室」は古墳の石室を意味しているという説もあるようです。この辺り古墳時代はなかなかの要衝だったのかもしれません。
なお、後で調べると鴻巣市内には生出塚埴輪窯跡という東日本最大規模(!)の埴輪窯跡の遺跡もありました。台地の反対側、鴻巣駅から埼玉県民にはおなじみの運転免許センターに向かう途中のあたりにあります。こちらは現在の元荒川の水運を使って埼玉古墳群や遠方では千葉県市原市の古墳まで運ばれていたのとの事。
鴻巣は古墳時代には東日本一の埴輪工房の地だったというのは新たな発見でした。